2月中旬、澄みきった青空に誘われて静岡の里山、**八高山**へ向かった。冬の低山は空気が乾いて視界が抜ける。しかもこの日は積雪なし。凍結や泥濘の心配が少ないコンディションは、歩きに集中するには理想的だ。登山口に立った瞬間、ひんやりとした空気が肺に心地よく入り、今日の山行が良い一日になる予感がした。
アプローチと序盤の登り
大井川鉄道の福用駅に車を停める。駐車スペースは数台あり、平日だったが問題なく停めることができた。林道脇の登山口から取り付くと、最初は緩やかな植林帯。足元は落ち葉が乾き、踏み跡は明瞭。冬枯れの森は視界が広く、夏よりも地形が読みやすい。急登コースを選択。傾斜が増すにつれて体温が上がり、ウインドシェルを一枚脱ぐ。2月とはいえ、日向は穏やかだ。呼吸を整え、ピッチを一定に保つ。心拍はやや高めだが、会話ができる程度のゾーン。トレーニングとしても心地よい強度だ。登山道は、樹林帯だが、天気が良いこともあり、とても良い感じ。心地よい。

やがて尾根に乗ると、空が一気に近づく。風は弱く、体感温度は低くない。冬の山は静かだ。鳥のさえずりと自分の足音だけがリズムを刻む。アップダウンを繰り返しながら標高を上げていくと、木々の間から遠くの山並みがのぞく。澄んだ大気がコントラストを際立たせ、冬ならではの立体感ある景色を作っている。




山頂



山頂に立つと、見晴らしはあまり良くないが、展望の良いところがある。南アルプス方面の白い稜線、遠くの街並み、そして冬空の深い青。派手さはないが、心に沁みる景色だ。ベンチに腰掛け、温かいコーヒーを淹れる。湯気が立ちのぼるカップを手に、ただ景色を眺める時間は贅沢そのもの。雪がない分、足元を気にせずゆったりと過ごせるのもありがたい。
行動食を口にしながら、これまでの登りを振り返る。急登はあるが、テクニカルな箇所は少なく、ペース配分を誤らなければ安定して歩ける山だと感じた。冬季でも積雪がなければ、軽アイゼンは不要。ただし朝方は霜で滑りやすい箇所もあるため、ソールのグリップは重要。装備は軽量にまとめつつ、安全マージンは確保する――低山でも基本は同じだ。
下山

下山は別ルートを選び、周回気味に歩く。日差しが差し込む尾根道は快適で、テンポよく足が進む。下りでは膝への負担を抑えるため、ストライドを小さく、着地は静かに。フォームを意識すると疲労の蓄積が違う。冬は汗冷えしやすいが、この日は風が弱く、レイヤリングの調整も最小限で済んだ。
途中、落ち葉の絨毯を踏みしめる感触が心地よい。乾いた音が規則正しく続く。登りで上がった心拍も徐々に落ち着き、呼吸は深くなる。山頂の開放感とは対照的に、森の中は包み込まれるような安心感がある。低山の魅力は、こうした表情の変化にあるのだろう。
冬の里山の価値

八高山は標高こそ高くないが、冬晴れの日には十分な達成感と展望を与えてくれる。2月中旬、雪なしという条件は、登山初心者にも歩きやすい。一方で、アップダウンの連続は適度な負荷となり、トレーニングとしても有効だ。短時間で自然に浸り、心拍を上げ、そして整える。日常のリズムをリセットするにはちょうどいい。
下山後、振り返ると山頂は青空に溶け込むように静かに佇んでいた。派手な演出はない。しかし、澄んだ空気と穏やかな陽射し、乾いた登山道という好条件が揃った一日は、記憶に長く残る。冬の低山は地味だと思われがちだが、その静けさこそが価値だと改めて感じた。
春はもうすぐそこまで来ている。それでも、冬の透明感を味わえるのは今だけ。八高山は、そんな季節の狭間を歩くのにふさわしい山だった。